イーサネット(Ethernet)

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イーサネット(Ethernet)は、ローカルエリアネットワーク(LAN)で最も広く使用されているコンピュータネットワーク技術です。1970年代に開発されて以来、そのシンプルさ、柔軟性、そして継続的な進化により、今日に至るまで企業、家庭、データセンターなど、あらゆる規模のネットワークで利用され続けています。

イーサネットの歴史、技術的な詳細、規格、トポロジー、そして今後の展望について詳細に解説します。

1. イーサネットの歴史と進化

イーサネットは、1973年にゼロックスPARC(Palo Alto Research Center)において、ロバート・メトカーフ(Robert Metcalfe)氏によって開発されました。初期のイーサネットは、同軸ケーブルを使用してデータを伝送し、データ転送速度は2.94 Mbpsでした。

その後、1980年にDEC(Digital Equipment Corporation)、インテル、ゼロックス(DIX)の3社が協力して、最初の標準化されたイーサネット規格「Ethernet Version 1.0」を策定しました。これにより、異なるメーカーの機器間でも相互接続が可能になり、イーサネットの普及が加速しました。

1983年には、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)によって、イーサネットの標準規格「IEEE 802.3」が策定されました。この規格は、初期のイーサネットの仕様を基に、より詳細な技術仕様を定義し、現在に至るまで継続的に更新されています。

イーサネットのデータ転送速度は、技術の進歩とともに飛躍的に向上してきました。以下に、代表的なイーサネット規格とそのデータ転送速度を示します。

10BASE5 (Thick Ethernet): 10 Mbps (同軸ケーブル)

10BASE2 (Thin Ethernet): 10 Mbps (同軸ケーブル)

10BASE-T: 10 Mbps (ツイストペアケーブル)

100BASE-TX (Fast Ethernet): 100 Mbps (ツイストペアケーブル)

1000BASE-T (Gigabit Ethernet): 1 Gbps (ツイストペアケーブル)

10GBASE-T: 10 Gbps (ツイストペアケーブル)

40GBASE-T: 40 Gbps (ツイストペアケーブル)

100GBASE-T: 100 Gbps (ツイストペアケーブル)

100GBASE-SR4: 100 Gbps (光ファイバーケーブル)

400GBASE-DR4: 400 Gbps (光ファイバーケーブル)

800GBASE-DR8: 800 Gbps (光ファイバーケーブル)

近年では、データセンターやクラウドコンピューティングの普及に伴い、より高速なイーサネット規格の開発が進められています。

2. イーサネットの技術的な詳細

イーサネットは、OSI参照モデルの物理層とデータリンク層に相当する技術です。物理層では、電気信号や光信号の伝送方式、ケーブルの種類、コネクタの仕様などを定義します。データリンク層では、MACアドレスを用いたデータの送受信、CSMA/CD方式による衝突回避などを規定します。

MACアドレス (Media Access Control Address): 各ネットワークインターフェースカード(NIC)に固有に割り当てられた48ビットの識別子です。イーサネットフレームの送信元アドレスと宛先アドレスとして使用されます。

CSMA/CD (Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection): イーサネットで用いられる衝突回避方式です。送信前にケーブルの状態を確認し、他の機器が送信していない場合にのみ送信を開始します。もし衝突が発生した場合は、送信を中断し、ランダムな時間待機した後、再度送信を試みます。

イーサネットフレーム: イーサネットで送受信されるデータの単位です。宛先MACアドレス、送信元MACアドレス、タイプ(プロトコルの種類)、データ、FCS(Frame Check Sequence)などのフィールドで構成されています。

スイッチングハブ: イーサネットネットワークの中核となる機器です。受信したフレームの宛先MACアドレスを基に、適切なポートにのみフレームを転送します。これにより、ネットワーク全体の帯域幅を効率的に利用することができます。

3. イーサネットの規格

イーサネットの規格は、IEEE 802.3シリーズとして定義されています。この規格は、物理層とデータリンク層の詳細な仕様を規定しており、異なるメーカーの機器間でも相互接続が可能になるように設計されています。

IEEE 802.3規格は、様々な物理メディアに対応しており、ツイストペアケーブル、同軸ケーブル、光ファイバーケーブルなど、様々なケーブルの種類をサポートしています。また、データ転送速度も、10 Mbpsから数百Gbpsまで、幅広い範囲をカバーしています。

以下に、代表的なIEEE 802.3規格を示します。

IEEE 802.3: 初期のイーサネット規格 (10 Mbps)

IEEE 802.3u: Fast Ethernet (100 Mbps)

IEEE 802.3ab: Gigabit Ethernet (1 Gbps)

IEEE 802.3ae: 10 Gigabit Ethernet (10 Gbps)

IEEE 802.3ba: 40 Gigabit Ethernet / 100 Gigabit Ethernet (40 Gbps / 100 Gbps)

IEEE 802.3bj: 100 Gigabit Ethernet (100 Gbps)

IEEE 802.3cd: 50 Gigabit Ethernet / 100 Gigabit Ethernet / 200 Gigabit Ethernet (50 Gbps / 100 Gbps / 200 Gbps)

IEEE 802.3ck: 100 Gigabit Ethernet / 200 Gigabit Ethernet / 400 Gigabit Ethernet (100 Gbps / 200 Gbps / 400 Gbps)

IEEE 802.3cu: 400 Gigabit Ethernet (400 Gbps)

IEEE 802.3da: 10 Gigabit Ethernet (10 Gbps) – シングルペアイーサネット

これらの規格は、継続的に更新されており、より高速で効率的なデータ伝送技術が開発されています。

4. イーサネットのトポロジー

イーサネットネットワークの接続形態(トポロジー)には、いくつかの種類があります。

バス型: かつては主流だったトポロジーですが、現在ではほとんど使用されていません。1本の同軸ケーブルにすべての機器を接続するため、故障箇所が発生するとネットワーク全体が停止するリスクがあります。

スター型: 現在最も一般的なトポロジーです。すべての機器をスイッチングハブに接続するため、故障箇所が発生しても他の機器には影響がありません。

ツリー型: スター型を拡張したトポロジーで、複数のスイッチングハブを接続して、より大規模なネットワークを構築します。

メッシュ型: 複数の機器を相互に接続するトポロジーです。冗長性が高く、信頼性の高いネットワークを構築できますが、構成が複雑になるというデメリットがあります。

通常、家庭や小規模オフィスではスター型トポロジーが、大規模な企業ネットワークやデータセンターではツリー型やメッシュ型トポロジーが使用されます。

5. イーサネットの今後の展望

イーサネットは、今後もコンピュータネットワークの基盤技術として、その重要性を維持していくと考えられます。

高速化の継続: データセンターやクラウドコンピューティングの需要増加に伴い、400 Gbps、800 Gbps、そしてそれ以上の高速イーサネット規格の開発が進められています。

低遅延化: 自動運転やリアルタイム通信などのアプリケーションでは、低遅延性が重要となります。低遅延イーサネット技術の開発が進められています。

省エネルギー化: データセンターの電力消費量が増加しているため、省エネルギーなイーサネット技術の開発が求められています。

無線LANとの融合: 無線LAN(Wi-Fi)とイーサネットを組み合わせた、より柔軟で効率的なネットワーク構築が進められています。

産業用イーサネット: 工場やプラントなどの産業分野で、イーサネットを活用する動きが広がっています。産業用イーサネットは、高い信頼性とリアルタイム性を実現するための技術が用いられています。

6. まとめ

イーサネットは、ローカルエリアネットワーク(LAN)で最も広く使用されているコンピュータネットワーク技術です。1970年代に開発されて以来、そのシンプルさ、柔軟性、そして継続的な進化により、今日に至るまで様々な規模のネットワークで利用され続けています。

高速化、低遅延化、省エネルギー化、無線LANとの融合、産業用イーサネットなど、今後の技術革新により、イーサネットはさらに進化し、ますます多様な分野で活用されることが期待されます。